彼は以前はフェルト製のソフト帽をかぶっていた。
それが今じゃムスリムの帽子をこれ見よがしに。
彼の言葉にはヘブライ哲学的暗示が散りばめられ、
煙草を吸う、きっかけをさがす、
カサブランカの月の下。
彼はモスクの陰、新聞で身を隠しながら潜む。
もういくつの大陸を渡ったか、数え切れず、
それは霜の上に残された関係者の足取りを追って、
Acnalbasac Noomの下で。
彼の偽造された身元はもうバレ、
ホーボーケンのどこかで、
そして、担当者は言う
「彼の容疑は消え去った」と。
彼は東方へと送られ、
結局、二重スパイを命じられる。
彼の口髭にはコカインの痕。
彼の謎をとくピースは出てこない。
上層部は国境を越えるコーカサスのたくさんのコインに
彼の顔を刻印したがっている。
彼は足元に気をつけた方がいい。
もう遅かれ早かれ、通気孔に彼の
首なし死体が見つかるんだから。
汗が金属の糸のように流れ落ち彼の目に染みヒリヒリする。
彼の嘘のヒビ割れから神経症が漏れ出す。
薄暗い売春宿で、叫び声で鏡を割った。
すべてはカサブランカの月の下。
昨日の夜、彼はついに気が狂い、
壁は崩れ落ち、全人類が彼の前に立ち、
全員が手を挙げ、しかし彼は
その行動のもつ意味をもうなに一つわからなかった。
彼は足元に気をつけた方がいい。
もう遅かれ早かれ、通気孔に彼の
首なし死体が見つかるんだから。
by Blegvad/Moore(Slapp Happy)
なんちゅう歌詞やねん、ですね。
しかしこれがダグマー クラウぜによって歌われるとき、「神の子が辿らざるを得なかった運命を歌う叙事詩」の如く聞こえるわけ。声の力!女の声、偉大ね。slapp happyには同じタイトル、同じ曲、なのに違う演奏という二種類のレコードがあって、どちらも「捨て難く」どちらかを聴いてるともう一つを聴きたくなるという、「マヨネーズvsケチャップ現象」とイマ思いつきで名付けたけど、そういう目に遭います。みなさんも遇ってください。こんな暗い歌が「ただの暗い歌」には聞こえないのね。歌詞と歌う態度、あるいは歌った結果がこんなにかけ離れるというのも、なんか、例がないような気が。アメリカの音しか聞いてない人にはおそらくピンとこんだろうね。可哀想に。怨念みたいなものを経由せずして明るいも暗いもない世界にこんにちは。ほんと、不思議で稀有な歌い手だなあと思う。一回聴いてみたら。
trans-caucasian のところ、Transcaucasia は、南コーカサスのことだそうです。アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージアの三カ国の地域。
それから、his case was lost のところ、
ケースは、鞄だと思います。