2018年02月18日

曽根崎キッドの日々 18

 曾根崎キッドは今夜の宿が必要だった。スパ・ワールドにはしばらく行けない。ジャンジャン横丁をどんどん南下していった。南下するにつれてどんどん街はシブくなってくる。おっちゃんらの数が増え、その様子も限りなく自堕落になっていく。左手に空間が開けた場所へとやってきた。大きな門の跡があり、そこはかつて意味をもった場所であることはすぐにわかった。曾根崎キッドは吸い込まれるようにその中へ入っていった。そこは過去に、というより今も意味を持つ場所だった。曾根崎キッドは、後からクラクションを鳴らされ、路の端へと移動した。ミニバンに4人の男子が乗り物色していた。屋号を表す看板が一列に並び、桃色の灯りが灯りだしたその一帯は夢の街だった。曾根崎キッドも似たような所に住んではいたが、その規模は段違いだった。ミニバンの中からは牡の体臭が外へと溢れ出ていた気がした。
 「にいちゃん、にいちゃん」おばちゃんが曾根崎キッドに声をかける。「一万円でええから」若いオンナが座っている。何軒かの前を通るうちにあるおばちゃんからは腕を掴まれたりもしながら、曾根崎キッドはその街を歩き続けた。そのうちに過去の、そこで働くオンナたちの悲惨な境遇に関する逸話を思い出したりもしたが、その街を歩き続けることは官能的だった。多分に桃色の灯りといかにも遊郭然としたそれぞれの家にやられているだけであったとしても。曾根崎キッドはエキゾティズムの虜になっていた。
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 その街のはずれまでやってきてもう引き返そうと思った時、おんながひとり玄関から出てきた。曾根崎キッドは息をのんだ。あのおんなだった。
 おんなは身体に張り付くような黄色のミニのワンピースを着ていた。一瞬驚いたような顔をしたがすぐに無表情になり、そして曾根崎キッドに手を差し伸べた。曾根崎キッドは迷った。
 「寝る所がないんでしょ」おんなが無表情のまま、口を開いた。「はなれが空いてるわ」
 おんなが、曾根崎キッドはもう気づいてしまったことをわかっているか、それはわからなかった。朝、太陽の残像の中から現れたのはこのおんなだった。ここから先は今までとは比べものにならない危険が待っている予感がしてきた。しかし、曾根崎キッドはおんなの誘いに乗ってみることにした。トドムンドのマスターがよく使うことわざに「虎穴に入らずんば虎児を得ず」というのがあった。
 おんなに手をつながれて、中へと入った。そこには、他所ではやり手ばばあの場所に若いおんなが座っていた。白いソックスを履き、三つ指をついて「いらっしゃいませ」と言った。こんなタイプの若いおんなってまだいたのか?と曾根崎キッドは思った。(つづく)

posted by 浪速のCAETANO at 04:12| 大阪 ☁| Comment(0) | 曽根崎キッドの日々(作り物・続き物お話) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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