2018年02月19日

曽根崎キッドの日々 19

 その家は奥行きがかなりあって、しかし、曾根崎キッドはあがってすぐの階段をおんなの後について上った。一番最後に見た時に思った、印象を再確認した。おんなの後ろ姿は、その無表情とは違って躍動感があった。形のいいふくらはぎに筋肉が透けて見え、なにかある一時期集中的にスポーツをやっていたことを窺わせた。
 「ここを使って」二階の一番奥の部屋の障子を開けておんながいった。四畳半のあっさりした部屋だが床の間があり、インドの仏をモチーフにした掛け軸が掛かっていた。ちゃぶ台を久しぶりに見た。置かれてあった薄い座布団におさまり、その前に正座して座ったおんなと目が合う。
 曾根崎キッドは目を逸らした。「何か要るものがあれば、あたしか、下のさゆりに言って。お腹は?」「いや、だいじょうぶ」「お寿司ぐらいならとれるわよ」おんなは立ち上がり部屋を出ていきしなに、「あ、スニーカーありがとう。使ってるわ」と言った。
 曾根崎キッドはおんなの足が26cmだったことを思い出した。もやっとした違和感があった。
 
 おんなが行ってしまってから部屋の建て付けの悪い窓を開けてみた。川が流れ、堤防があり、そしてその向こうには巨大なマンション群がそびえ立っていた。一番下、と思われるフロアでさえ、通常のビルの5・6階に相当する高さにあった。そこから地面までは傾斜のついた巨大すべり台のような土台で壁だ。震度6強の直下型地震でも大丈夫といううたい文句だった。そういえばこの下には上町断層があった。  
 
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 曾根崎キッドは頭の中でそのマンションたちを崩してみた。巨大地震を当てはめてみた。
 強度を誇るとされるマンションのその土台があっけなく陥没し、下の階から順に柔らかなムースになって潰れていくのだった。そのマンションの乱立する地区は荒野になり、砂煙があがり、こちらの色街の人々が見つめつづけているうちに砂煙が解消し、そこに現れたのは呆然と立ち尽くす裸の男女の群れだった。色街の人々は服は着ている。しかし、誰からともなく服を脱ぎだし、それを丸め、川の向こう岸に向かって投げ出した。呆然と立っていた向こうの人々は先を争いながらそれを拾いにかかる。こちらからはさらに多くの服が投げられるがまだ足りない。人々はその服を奪い合い、おとなが子供を殴り、少年が老人を蹴り、おとこがおんなを踏みつけていた。そのうちこちらの人々は全員裸になり、もう投げるものがなくなり、目に涙を溜め向こう岸をただ見つめていた。向こうからはまだ服を手に入れられないひとびとからの罵声が響き渡っている。そのうちにまだ服を手に入れる事のできない人々が、川に飛び込み始めた。何人もの人がヘドロに足を取られ、身動き取れなくなり、力尽きながら沈んでいった。辺りを見回すと、高い建物がなくなり、視界が開けていた。ただ通天閣だけが誇り高く屹立していた。

(つづく)

posted by 浪速のCAETANO at 00:19| 大阪 ☁| Comment(0) | 曽根崎キッドの日々(作り物・続き物お話) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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