2018年02月28日

曽根崎キッドの日々 28

「ちょっと付き合ってくれへんかな」
 近くで見ると男はセルロイドのような皮膚をしていた。「すぐそこやねん」
 曾根崎キッドは残りの五百円玉を握りしめた。先に打った五百円分の玉もひとつも入らず、下の穴へと吸い込まれていった。
 この男から逃げることも出来たかもしれない。しかし、妙な磁力のようなものがその目にはあり、曾根崎キッドは金縛りにでも遭ったように、特に脚にチカラが入らなかった。
 男は曾根崎キッドを抱えるようにしてさっき信号無視をして渡った路まで歩いた。停めていたクルマに曾根崎キッドを乗せ、シートベルトをし、自分も運転席に滑り込み、キーを廻すと同時にアクセルを噴かし、タイヤを鳴かせ、強引にUターンした。またクラクションが鳴ったが、それらは曾根崎キッドにはなんだか遠くに聞こえたのだった。


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 マセラッティは高層マンションの地下駐車場へと滑り込み、止まった。

「こっち」
 男は曾根崎キッドをクルマから下ろし、また身体を抱えるようにしてエレヴェーター・ホールへ。34という数字を押した。
 そのフロアすべてが男の家だった。一面の窓からは生駒山から大阪湾まで一望でき、通天閣にはすでに灯りが点っていた。
「この時間が一番いいねんなあ」
 男はそう言いながら曾根崎キッドにソファーを勧めた。適度な柔らかさの皮だった。脚のしびれはなくなっていた。
「何か飲む?ぼくはシングル・モルトにするけど」曾根崎キッドは頷いた。
「どこのんがいい。ご希望には沿えると思うけど」
 曾根崎キッドはトドムンドにあったシングル・モルトを思い出してみた。
「じゃあ、ハイランドのを」
「東西南北?」
「南」曾根崎キッドは当てずっぽうで答えた。
「任せてくれる」曾根崎キッドは頷いた。男は奥へと消えた。
 いったいここは何なのだ?と曾根崎キッドは考えた。やつは誰だ?逃げ出すことも一瞬考えたが、無駄なような気がした。
 曾根崎キッドは立ち上がって窓の外を眺めた。スパ・ワールドを見下ろすことになる。その街は上から見ると絶望的な光景だった。つい今までそこにいたのが嘘みたいな距離感を感じた。そして真下には飛田の街がこじんまりとしてそこにあった。曽根崎キッドはつい先ほど意識の中で倒壊させた建物の中に今いることに気づいて唖然とした。(つづく)

posted by 浪速のCAETANO at 06:25| 大阪 | Comment(0) | 曽根崎キッドの日々(作り物・続き物お話) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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