2018年03月01日

曽根崎キッドの日々 29

しばらくして男はボトルとショット・グラスと氷と水の入ったグラスをトレイに乗せて戻ってきた。
「ちょっとくせあるかもしらんけど、きっと気に入ると思うわ」と言いながら二つのショット・グラスに七分目ほどウィスキーを注いだ。
「じゃあ、出合いに乾杯しよう」グラスを上げ、曾根崎キッドもそれにつられてグラスを上げた。
 たしかに少しオイルの香りがする個性的な味だった。「いける?」と男が目で言うから「そうやね」と曾根崎キッドも目で応えた。
「ロッホ・ロモンドって言って、蒸留所の名前」「はあ」
 寒いぐらいに空調が効いていた。

 いったい、この男は自分になんの用があるんだろう。単なる旬の興味か。

A4B341ED-F7D1-4871-8564-A032D7066C12.jpg
 大阪湾の上にある空が血の色をしていて、この夕焼けを毎日見ていると、なにか「ふつう」なことでは満足できなくなるだろうな・と曾根崎キッドは思う。中庸でいる自分が許せなくなったりしないだろうか。ひょっとしてこの男もそうなっているのだろうか。間違いなく金持ちみたいだし。
 「ぼくら曾根崎キッドのファンやねん」
 ファンって・・・突然そんなことを言われても困ってしまうのだ。「これから友達にも紹介するから。今日時間だいじょうぶ?」
 曾根崎キッドはそのウィスキーを一気に喉に流し込んだ。重い液体が食道を通っていった。喉の奥には熱さが残った。しばらくおいて氷の入った水でその熱さを薄めた。
 金持ちたちの一時の慰み者になるのはいやだな、と曾根崎キッドは思った。こいつらはきっと今日・明日ぐらいはちやほやして、対象を消費した後は路であっても目も合わさないタイプだ。
 「そろそろ行こうか」大阪湾はその色を失い、高速の灯りの背景へと成り下がっていた。



 曾根崎キッドは、しかしこれからゆうのところへ戻っても、曖昧な気持ちのまま戻っても仕方がないな、夜遅く帰って寝るだけにしようと思い、時間をつぶそうと決めた。それにはこいつらのようなスノッブは都合がいいかもしれない。
 男についてエレヴェーターに乗った。男は一番上の数字ではない横長のボタンを押した。「IL SALONE」と読めた。下の数字は39まであった。音もなくドアが開いた。(つづく)

posted by 浪速のCAETANO at 03:43| 大阪 ☔| Comment(0) | 曽根崎キッドの日々(作り物・続き物お話) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。