2018年04月04日

曽根崎キッドの日々 62

 曾根崎キッドは階段をのぼった。5階分のぼれば屋上のはずだ。ドアがあった。静かに開けてみる。エレヴェーター・ホールの横だった。ウエイトレスを探した。トレイにシャンパンとグラスを乗せ、おっぱいとケツを強調させながら向こうへと歩いていた。曾根崎キッドは素早かった。ちょうどさゆりのいる部屋の窓側にあたる一角になぜか綱がとぐろを巻いてそこにあった。身体を前傾し、走り出す。ウエイトレスはちょうどテーブルに到着し、何か客と談笑していた。綱は一端が空調の室外機を覆うジュラルミン製の外枠に固定されていた。長さを目で測って、五階分の長さ・と思えるあたりを鷲掴みし、そのままフェンスを超え、重力に身を任せた。客の「ああっ」という声に
ウエイトレスが振り向いた。曾根崎キッドは目を見開き、落ちながらも、掌に確実にやってくる衝撃に備えて、綱を二の腕にそして腰へと巻き付けた。そしてその衝撃はやってきた。右の掌の皮がずるっと剥け、左の掌とぐるっと綱の巻かれた二の腕でかろうじて身体を支えられた。その衝撃の直前に二人の女の姿を見た気がした。見覚えのある顔だった。

 曾根崎キッドは一つ下の階まで落ちてしまっていた。
「こるぁぁぁ、キッドなにしとんじゃ・ボケぇ」
 上から声が聞こえた。ウエイトレスのでかい顔が見下ろしていた。曾根崎キッドはそれどころではなく、片手と両足で少しずつ上へとよじのぼろうとした。その時、綱が揺れだした。ウエイトレスが上で揺すりだしたのだ。
「ヤメろ・あほ」
「なぁにがアホじゃ。アホはお前やろ・ボケぇ」
「ヤメろよ・ヤメてくれ」
「ヤメへんのじゃ・ボケぇ」
「ヤメてください・お願いします」
「ヤメへん言うてるやろ・ボケぇ」
「落ちるやろ・ヤメろよー」
「落ちたらええやんけー・いたいぞー」
「死ぬやろ・アホ」
「アホはお前じゃ・ボケぇ」
 曾根崎キッドは揺れながら、左手の握力がなくなりつつあるのを感じていた。(つづく)

posted by 浪速のCAETANO at 07:40| 大阪 ☁| Comment(0) | 曽根崎キッドの日々(作り物・続き物お話) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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